ストレス科学ストレス科学研究所

メール相談メンタルサポーター養成講座
山本先生インタビュー

withコロナ時代の心理援助 
メール相談で “お役に立ちたい” 。

対面での心理カウンセリングが難しくなったwithコロナ時代。
心理援助の手段もオンラインでの実施に関心が高まっています。

“表情の見えないカウンセリングは難しい!”

こころのケアに関わる多くの方のそんな声にお応えするため、メール相談の第一人者、横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義医師にメール相談の活用方法についてのインタビューを行いました。
山本先生

きっかけは“上からの命令”。でも、やってよかった。

――山本先生がメール相談を始めたきっかけは?

山本:メール相談は、旧厚生省の政策の一部として始まりまった取り組みです。
働く人の健康をサポートする労災病院で、予防医療実践の手段として電話相談やメール相談の導入が求められました。
当時、メール相談の経験は誰にもなく、皆が導入を躊躇しましたが、最終的には上からの命令で私が一手に引き受けることになりました。

――メール相談開始当時、どんな苦労があった?

山本:対面を伴わない医療行為は医師法で禁止されています。メール相談が医療行為の一部となる可能性を心配した周囲のスタッフや同僚から、メール相談の導入に対する反対がありました。
しかし、国立病院に所属している以上、国の政策を拒否することはできません。ノウハウも存在しない状況で、手探りで相談を受け付け始めました。
そういう意味では、“社会貢献”ではなく、“仕事”としての義務感に基づいてメール相談を始めたというのが正しいと思います。

――今でも開始当時と同じ気持ち?

山本:メール相談を始めたきっかけは、あくまでも“上からの命令”でした。
でも、“やってよかった”というのが今の気持ちです。メール相談にやりがいを感じています。
医者として定年を過ぎるまで仕事を継続できているのもメール相談を続けてきたからだと思います。

相談をする側も受ける側も利用しやすい。それがメール相談。

――メール相談の良いところはどんなところ?

山本:心療内科医として通常の診療を行う中で、病院に行くことに抵抗感を持つ相談者が多いと感じます。
医療機関の受診とは違う形で気軽に利用できるのが、メール相談の良さです。
病院で支援を受けることができるのは病院に通うことができる範囲の方だけですが、メール相談ならば、メールのやり取りが可能な環境であれば、世界中からいつでも相談することができます。

――相談を受ける立場で感じるメール相談の利点は?

山本:支援する側にとっても場所の制約がないことがメリットです。
自宅にいても世界中から相談を受けることができます。

山本先生

相談者から得られる情報は少ない。それもメール相談。

――メール相談が抱えるリスクは?

山本:対面での診療やカウンセリングのように、相談者に直接お会いすることができない分、メール相談では相談者について把握することができる情報が少なくなります。
仮にメールで治療しようとすれば、ミスジャッジや間違った返信をしてしまうリスクが生じます。
病気の可能性のある相談者を医療機関につなげる役割としてメール相談を行えば、リスクを最小限にできるのではないでしょうか。とは言え、メールのやりとりだけでも、一定の治療的効果があるとも感じています。

――メール相談の相談員(カウンセラー)が身に付けておくべき知識やスキルは?

山本:メール相談のリスクを最小限にするためには、“疾病性”の観点から医療機関の受診の必要性について判断することができる知識やスキルを身に付けておくべきだと思います。

メール相談のニーズは多いが、カウンセラー教育の場は少ない。

――メール相談メンタルサポーター養成講座を企画したきっかけは?

山本:産業カウンセラーなど、現場にいる心理援助者から“メール相談をやりたいけど不安だ”というお声を多く聞きました。
その声に対する受け皿として、この講座を企画しました。
カウンセリングに関する資格を取得しても活かす場がないという声も多く、メール相談がこうした方々が活躍するフィールドの選択肢のひとつになることを望みます。

山本先生

メール相談の裾野を広げる初級講座。“相互学習”で高め合う中級講座。

――初級講座のねらいは?

山本:メール相談の基礎的な知識を身に付け、色々なフィールドでメール相談を活用してもらうことです。
メール相談を心理カウンセリングの手段として利用されたい方だけではなく、例えば、企業の人事・労務担当の方や保健スタッフの方にも参加していただきたいと思います。
メールを社員との単なる連絡手段や情報交換として使うのではなく、カウンセリングの要素をふまえた相談手段として学んでいただけるといいなと考えています。

山本先生

――中級講座のねらいは?

山本:中級講座を修了された方には、メール相談を仕事として使ってもらえるようになっていただきたいと考えています。中級講座では、実際の相談事例を題材として回答メールを作成し、それを受講者同士で共有してお互いを高め合う“相互学習”を組み込んでいることが特徴です。自らが相談者になったつもりで他の受講者の方が書いた回答メールを読むことで、カウンセラーから返信をもらった時の相談者の気持ちを感じてもらい、それをご自分の回答メールに活かしてもらいたいと思っています。

お役に立ちたい。

――メール相談のやりがいは、どんなところにある?

山本:①ユーザー(相談者)のためになること、②カウンセラーのためになること、それが結果的には③社会のためになることにつながると思います。
この三つのためにならないと意味がありません。“お役に立つこと”、それが私のやりがいになっていると思います。

――メール相談の今後に対する期待や展望は?

山本:今までは、手探りでメール相談に取り組んできましたが、学術研究としてのバックボーンがほしいなと思っています。山本流メール相談の科学的なエビデンスを積み重ねて、将来的には、AIで山本流メール相談ができるようになってほしいなと考えています。
私がいなくなっても山本流メール相談が生き続けてくれたらうれしいですね。